ファミリーカーの決定版
車名:日産 セレナ
試乗グレード:ハイウェイスターG 2WD(マルーンレッド/ダイヤモンドブラック 2トーン)301万1040円(試乗車388万504円)(税込)
一時期の勢いはないにせよ、セレナ、ステップワゴン、ノア/ヴォクシーが日本のミニバン、ファミリーカーのど真ん中であることは間違いない。ステップワゴンが切り開いたこのマーケットで各社がしのぎを削るなか、セレナは特にファミリーを意識したクルマ作りを続けてきた。1999年に登場した2代目の「モノより思い出」という名コピーが象徴的だが、2016年8月に登場した5代目も家族のためのミニバンという路線を受け継いでいる。
相変わらず大きく見える
3代目以降のセレナの人気の秘密はいくつかあるが、一つはライバルたちよりも少し大きく立派に見えるスタイリングだ。新型セレナのノーマルグレードは全長4690mm全幅1695mm全高1865mmとギリギリ5ナンバーサイズ、バンパーやサイドの造形がスポーティなハイウェイスターが全長4770mm全幅1740mm全高1865mm。実はライバルに比べてサイズはほとんど変わらない。デビューが2015年4月のステップワゴンのノーマルグレードは、全長4690mm全幅1695mm全高1840mm、スポーティなスパーダが全長4735mm全幅1695mm全高1840mm。2014年1月デビューのノア/ヴォクシーは、全長4695mm全幅1695mm全高1825mm、同じくスポーティなSiやZSが全長4710mm全幅1730mm全高1825mm。それなのにセレナが大きく立派に見えるのはデザイン(と低床シャシーではないためにやや高い全高)のおかげだろう。
サイドウインドウのラインを下げて視界を確保したのは3代目セレナが先駆けだが、ボディサイドの後半をスパッと直線でデザインしたのは4代目ステップワゴンが広めたやり方だし、立派なフロントグリルのニーズを拾い出したのはノア/ヴォクシーだ。現行の3車種はお互いに切磋琢磨(?)して、気がつくとよく似たモチーフを持つデザインになっている。
そのなかで今回のセレナは大きく見せることは維持しつつ、草食系のデザインからシャープなデザインにうまいこと舵を切った印象だ。特にフロントセクションやリアのライト周りの意匠にそれを強く感じる。旧型のセレナや現行のノア/ヴォクシーが何となく古臭く見えるのは新型のデザインが成功している証ではないだろうか。
室内はどこもかしこも「家族思い」
セレナが成功した理由のもう一つはファミリーカーとしての室内空間の広さと徹底した作り込みだ。
新型もそれを継承し、このクラスで最大の室内空間に、多彩で工夫されたシートアレンジ、豊富な収納スペース、細かな配慮の便利な装備が盛り込まれている。中でも運転席の視界の良さ、2列目と1列目で移動できるセンターアームレスト、上部だけを開閉できるバックドアなどは使い勝手がよく秀逸だ。
ゴーン体制になって以降、日産のマーケ部門がクルマ作りに積極的に関与するようになってから、最も成功したクルマがセレナであろう。ファミリーカーがどう使われているかを調べるだけでなく、どんなファミリーカーなら家族が喜ぶかまで踏み込んで考えられている。ちなみにセレナのカタログを見ると、家族のありがちな、時には「かくありたい(?)」シーンが満載でライバルのそれとは随分印象が異なる。
室内空間の作り込みという点ではステップワゴンも元祖だけに良くできていることは言及したい。セレナより低く段差のない床、分割で開くバックドア、床下にワンタッチで収納できるサードシートなど、セレナと甲乙付けがたい出来だ。特に3列目シートの収納はセレナも低い位置で簡単に格納できるのが売りだが、ステップワゴンの床下収納には敵わない。一方ノア/ヴォクシーは設計が古い、という理由だけでは言い訳しきれない作り込みの甘さが、あちらこちらに見え隠れする2列目シート用のテーブルが無いことや、何の工夫もないバックドアに特にそれを感じる。「愛」が「コスト」に少々負けてしまっている印象だ。
目に見えるところの品質は大幅向上
さらに今回のセレナは目に見えるところと手が触れるところの品質感の向上が目覚ましい。特にダッシュボードや運転席ドアの内装トリムの出来はなかなかのものだ。
一方で逆説的な言い方をすると、目に見えないところのコストカットも徹底している。例えばチルト&テレスコ機能を付けたことは立派だが、ステアリングのその部分を覆うカバーは隙間が見えるという、まさに目を疑うような作りだし、大きく引きやすいシートサイドのスライドレバーも横から見ると樹脂がとても安っぽいことに気づくだろう。しかしそれはコスト制約の厳しい、このクラスのミニバンの宿命だ。セレナはユーザーが喜ぶツボを心得ていて、お金をかけるべきところを知っている。
素晴らしく改善された足回り
歴代セレナの弱点は走りだった。特に低床シャシーを使うステップワゴンとの差は、この点において著しかった。ステップワゴンは子供を乗せていない時に峠道をそれなりのペースで走ってもリズムの良い走りを見せるが、セレナときたらハンドルを切るとグラっと傾き、段差を乗り越えても収まりが悪く、悪い意味でミニバンぽいクルマだった。
ところがどうだろう、新型はハイウェイスターといえども相変わらず柔らかめの足回りだが、コーナリング時の傾き方のスピードがとても自然だし、段差を乗り越えた時の上下動の収まりもいい感じだ。大げさに書くとグループ会社であるフランス・ルノーのような懐深さである。
ハイブリッドは大したことないが運転はしやすい
試乗車はハイブリッド仕様であったが、セレナのハイブリッドは簡易型でありモーターは脇役どころか黒子に徹している。直噴エンジンらしい音と回り方をするエンジンは、ステップワゴンのダウンサイジングターボとエンジン単体で比べると力強さやスムーズさで劣る。ただCVTのセッティングがしっかりしているので、アクセルだけでコントロールしやすく比較的運転がしやすいし、以前のモデルのようなルーズさは影を潜めている。この点でも進化は著しい。
未来感抜群のプロパイロットだが・・・
さて、いよいよお待ちかねのプロパイロットに話を進めよう。自動運転という言葉が先走りしすぎているが、セレナのプロパイロットは全車速追従のオートクルーズと車線逸脱防止装置を組み合わせたものである。全車速追従オートクルーズは、前を走るクルマのスピードに合わせて走り、停止から任意で設定した上限速度までの間、自動でアクセルとブレーキを制御する。この技術自体はすでに目新しいものではないが、このクラスでは初採用であり、多くの人にとっても自動でクルマが停止し、再発進する様は未来感があるだろう。ただ、このセレナのオートクルーズは発進時に前車との距離を取りすぎるきらいがある。そんな時は自分でアクセルを踏み足せば良いのだが、クルマ任せにしていると気が短い後続車を苛立たせるのではないかと心配になるほどだ。ちなみにステップワゴンも同じような自動追従型のオートクルーズを選べる。しかし現時点では最低速度が30km/hに制限され渋滞時には役に立たない。
もう一方の車線逸脱防止装置は白線を認識してその中央を走るようにステアリングを制御するもの。これもまた広く採用されている技術ではあるが、セレナの場合、それがある程度のコーナーでも対応する点が新しい。短時間であれば手放しでもステアリングが自動で切れる様は、こちらもなかなか未来感がある。しかし意外とゆるいカーブでも自動制御をやめてしまうことがあるので、ステアリングに手を添えている必要がある。ちなみにメーカーは高速道路や自動車専用道路での使用を推奨しており、実際、白線が途切れがちな一般道では反応しないことも多かった。
現時点では最も進歩した家族向けミニバン
新型セレナは、話題のプロパイロットには熟成の余地があるが、ファミリー向けミニバンとしての完成度は非常に高い。特に苦手科目だった走りの改善が著しい。ステップワゴンがミニバンとは思えない正確な足回りでキビキビ走るのに比べて、セレナはもう少しゆっくりしたリズムを持つクルマであり、これはこれで好ましい設定である。ノア/ヴォクシーが旧態化し、ステップワゴンが中身の良さにもかかわらず、主にスタイリング面で苦戦を強いられている今、やはりセレナがこのクラスのベストチョイスではなかろうか。
日産セレナスペック
ボディサイズはノーマル全長4690mm全幅1695mm全高1865mmとギリギリ5ナンバーサイズ、スポーティなハイウェイスターが全長4770mm全幅1740mm全高1865mm。搭載するエンジンはSが2Lのガソリン、それ以外は2Lガソリン+モーターのハイブリッド。駆動方式はFFと4WDを選べる。トランスミッションは全てCVTだ。新車価格はS(2Lガソリン・FF)の243万5400円からG 4WD(2.0Lガソリンハイブリッド・4WD)の313万5240円まで。
日産セレナ オススメグレードはこれ!
リセールバリューを考えるならハイウェイスター プロパイロットが外せないならXがオススメ
ファミリーカーの主力モデルといえるのが、今回紹介する日産セレナが属している2Lクラスミニバンだ。トヨタヴォクシー/ノア/エクスクァイアの3兄弟とホンダステップワゴンがライバルとなり、2016年8月に登場したセレナが最もフレッシュなモデルとなっている。最新の運転支援システム「プロパイロット」に注目が集まっているが、キーを携帯していれば、両手が塞がっていてもスライドドアの下に足先を入れて引くだけで、ドアが自動で開閉できるハンズフリーオートスライドドアやバックドアの上半分だけ開閉でき荷物の出し入れが可能なデュアルバックドアを採用している。加えて、クラストップの室内空間の広さを確保するなど、最後発モデルらしい魅力が詰まっている。ミニバンはエアロパーツを装着したグレードの人気が高く、売却時のリセールバリューも高めとなる。便利なハンズフリーオートスライドドアは最上級グレードのGに標準装備され、ハイウェイスターやXはオプション設定となる。注目の運転支援システム、プロパイロットは全車オプションとなるため、装備を吟味し、Xにオプション装着するのがオススメだ。
■ 日産セレナグレード一覧表
車名 | 駆動方式 | グレード名 | JC08モード燃費(km/L) | 価格(円) |
セレナ | FF車 | S | 15.0 | 2,435,400 |
X | 17.2 | 2,489,400 | ||
G | 16.6 | 2,897,960 | ||
ハイウェイスター | 17.2 | 2,678,400 | ||
ハイウェイスターG | 16.6 | 3,011,040 | ||
4WD車 | X | 15.8 | 2,733,480 | |
G | 15.0 | 3,135,240 | ||
ハイウェイスター | 15.8 | 2,965,680 |
■ ライバル車スペック
車名 | 価格(円) | ボディサイズ(全長×全幅×全高mm) |
日産 セレナ ハイウェイスター | 2,678,400 | 4770×1740×1865 |
トヨタ ヴォクシー ZS | 2,739,273 | 4710×1730×1825 |
ホンダ ステップワゴンスパーダ ホンダセンシング | 2,840,000 | 4735×1695×1840 |
日産セレナのライバルはこれ!
トヨタヴォクシー-低燃費が魅力のハイブリッドを設定
2Lクラスミニバンで圧倒的なシェアを誇っているのが、同じシャシー、パワートレインを共有しているトヨタヴォクシー/ノア/エクスクァイア3兄弟だ。直近の販売台数を見ても最も売れているヴォクシーが5032台。3車種を合計するとプリウスを抑えて2位にジャンプアップする。その人気の原動力となっているのはハイブリッド車を設定していること。先代プリウスに搭載されていたTHS-IIと呼ばれるハイブリッドシステムをミニバン用にチューンし搭載。JC08モード燃費はクラストップレベルの23.8km/Lを実現している。ハイブリッドシステムの差で燃費性能はヴォクシーに一歩譲るセレナだが、室内の広さやプロパイロットをはじめとした先進の運転支援システム。そしてデュアルバックドアなどドライバーをはじめ使う人が満足する装備がセレナの方が充実している。加えて、燃費性能が優れたハイブリッド車は高額なため、セレナとの価格差が大きいことも付け加えておきたい。
トヨタヴォクシースペック
全長4695mm(ZSは4710mm)×全幅1695mm(ZSは1825mm)×全高1825mm(4WD車は1865/1870mm)搭載するエンジンは2Lガソリンと1.8Lガソリンエンジンとモーターを組み合わせたハイブリッドシステムの2種類でミッションはCVTが組み合わされる。駆動方式はガソリン車がFFと4WD、ハイブリッド車はFFのみで、新車価格はX Cパッケージの228万4691円〜ハイブリッドZSの322万9200円。
ホンダステップワゴン-奇抜に見えて使い勝手の良いワクワクドア
日産セレナのライバルとしてもう1台取り上げたいのがホンダステップワゴン。高出力と低燃費を両立させるため、ヴォクシーやセレナがガソリンエンジンとモーターを組み合わせたハイブリッドシステムを搭載しているのに対して、ステップワゴンは欧州ブランドが導入している小排気量ターボエンジンを採用した。ステップワゴンに搭載されている1.5Lターボエンジンは1600回転という低回転域から203Nmという最大トルクを発生するため、多人数乗車時でもスムーズな加速が特徴。しかもJC08モード燃費は15.4km/Lを実現している。加えて、ステップワゴンはリアゲートが縦と横に開閉できるわくわくゲートを採用している。一見、奇抜なアイテムだが、実際に使用してみると3列目シートへのアクセスは素晴らしく、利便性の高さに驚かされる。先進安全運転システムのホンダセンシングも装備し、高い安全装備も魅力だが、プロパイロットと比べると機能的にはやや物足りない。そして現在の人気の低迷は売却時のリセールバリューの低さに繋がってしまうことは知っておきたい。
ホンダステップワゴンスペック
全長4690mm(スパーダは4735mm)×全幅1695mm×全高1840mm(4WD車は1855mm)。搭載するエンジンは1.5L直4DOHCターボの1種類で、ミッションはCVTが組み合わされる。駆動方式はFFと4WDを設定し、新車価格はBの228万8000円からモデユーロXの366万5000円となっている。
今回試乗した車はこちら
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