人気車種 試乗&ライバルチェックVol.8
スズキ ジムニー
VSハスラー&キャストアクティバ
▽ 楽しいオーバースペック
▼ 世界で働くジムニー
▼ 基本構造は変わらないが20年分の改良が
▼ 質実剛健な2代目に回帰したデザイン
▼ いい道具感が漂うインテリア
▼ ゆったり座れる前席、意外に使えそうな後席
▼ 選ぶ価値があるマニュアル車
▼ 鈍くない、穏やかな足回りはオンロードでも大丈夫
▼ 「返したくない」クルマ
▼ やはりオートマはオートマ
▼ 長く乗っても、すぐ手放しても大丈夫
▼ オススメグレードはこれ!
▽ ライバルはこれ!
▼ スズキハスラー
▼ ダイハツキャストアクティバ
楽しいオーバースペック
車名:スズキ ジムニー
試乗グレード:XC 0.66Lターボ・5MT・パートタイム4WD(ブリスクブルーメタリック ブラック2トーンルーフ)174万4200円(試乗車203万1534円)(税込)
XC 0.66Lターボ・4AT・パートタイム4WD(シフォンアイボリーメタリック ブラック2トーンルーフ)184万1400円(試乗車210万7134円)(税込)
2018年7月、いまや世界で唯一といっていいスモールクロカン4WDの軽自動車・スズキジムニーが20年ぶりにフルモデルチェンジを受け、4代目にスイッチした。
同時に1.5Lエンジンを搭載した小型車版・ジムニーシエラも刷新されたが、今回はオリジナルのジムニーのMT車とAT車の2台を借り出すチャンスに恵まれたので、その実力をリポートしよう。
世界で働くジムニー
1970年に発売された初代ジムニーは11年、1981年発売で直線的なデザインで大ヒットとなった2代目が17年、そして軽の規格拡大に合わせて1998年に登場した3代目が20年、と歴代ジムニーはいずれも長いモデルサイクルが特徴だ。
もうすぐ50周年を迎えるジムニーシリーズの累計販売台数は約285万台、世界194の国と地域で販売されている。一般ユーザーに加えて、日本では林業関係者や電力会社など山間部でのプロユースでも活躍しているジムニーだが、オーストラリアでは広大な農場で働き、ヨーロッパではハンターや森林保全関係者を助けているという。特にヨーロッパの累計販売台数は90万台を超えており、日本の約82万台を上回っている。いずれにしても過酷な環境下で使われることを想定したクルマ作りがジムニーの変わらない特徴だ。
基本構造は変わらないが20年分の改良が
今回の4代目もそんなジムニーの伝統を受け継いでいる。悪路に耐える頑丈なラダーフレーム、平らでない地面を掴む前後3リンクリジットのサスペンション、しっかりとパワーを伝えるFRベースの副変速機付パートタイム4WD、そして何よりジムニーをジムニーたらしめている狭く険しい道で真価を発揮するコンパクトなボディ。
つまり相変わらずSUVではなくクロカン四駆なのだ。これらの基本構造は改良を受けつつも新型に継承されている。
20年ぶりの全面刷新ということで、ラダーフレームには補強が施され、ねじり剛性は50%増しとなった。一方でボディーマウントゴムを大型化することなどで快適性も向上させている。パートタイム式4WDにも電子制御の波が押し寄せ、空転を防ぐLSDは「ブレーキLSDコントロール」やESPによる制御に切り替わった(リアにはオプションで機械式LSDの用意あり)。なにより自動ブレーキなどの安全運転支援装置が一気に時代に追いついたのは朗報だ。
そんな進化を遂げた新型ジムニー、本来の活躍の場である悪路性能の良さに疑いの余地(?)はないだろう。
しかし昨今のSUVブームのなか、街乗りメインの使い方をイメージしている多くの人にとって不便はないのだろうか。今回は一般路と高速道路を走らせて、そのあたりをチェックしてみたい。
質実剛健な2代目に回帰したデザイン
4代目の外観はセールス的に成功を収めた2代目に回帰した。
特にキャビン上部を始めボデイ各所の絞り込みが3代目に比べて弱められたことで、四角いクルマという印象を取り戻している。復活した無骨な雨樋もジムニーが道具であることをアピールする格好の材料だ。
整備性の良さそうな大きな台形のホイールハウスはサスペンション部品が丸見えだが、使用されている防錆塗料が通常の数倍する高いものだと聞くと、こんなところでも妙に道具感が増す。
フロントグリルは3代目のモチーフを継承する。しかし、これとてオプションで2代目風のものが用意されている。
ちなみにオプションカタログには「ヘリテージスタイル」や「リバイバルスタイル」など、アクセサリーをパッケージ装着することでイメージチェンジを図る提案が掲載されているが、参考写真として登場している「旧型」はすべて2代目である。これだけSUVが街に溢れる昨今、元祖のジムニーとしては3代目のようなラグジュアリー方向に変な欲(?)は出さず、原点回帰したかったのだろう。
いい道具感が漂うインテリア
インテリアも外観同様、実用的な方向に戻っている。副変速機がスイッチからレバー式に戻ったのが象徴的だが、ヘアライン仕上げが施されたメーターやダッシュボード下部に並べられたスイッチ、パワーウインドウスイッチなどの質感がとても良いので、「実用的」を超えて「いい道具」感すら出ていると書いたら誉めすぎだろうか。
ゆったり座れる前席、意外に使えそうな後席
床は高いが前回紹介したランドクルーザープラドほど足を投げ出さなくて良いシートに収まると、軽自動車とは思えない着座位置の高さと視界の良さに気づく。シートは座面が分厚くサイズも比較的大きい。ドリンクホルダーはシフトレバー後ろに2つ分のみとなるなど一般的な軽自動車に比べると収納は少ない。
期待していなかったリアシートはスライドさせれば足元は意外や余裕すらある。座面は薄いがそれほど露骨に不快な感じはない。ただ床が高いので太ももの裏は座面から離れてしまう。後席の窓側に肘掛けがあればいいのだが、そこはリアシートを倒した時にフラットにするために一段低くなっている。それゆえリアシートを倒したときのフラットで使いやすそうな荷室はさすがだ。
細かいところだがリアの熱線の配線やコネクターはすぐに壊れそうな作りなのが少々気になった。
選ぶ価値があるマニュアル車
まずは一番ジムニーらしいマニュアル(MT)車から試乗開始だ。エンジンを始動させシフトレバーに触れると、レバーからブルブル振動が伝わってくる。もともとMT車乗りでいまだに運転中シフトレバーに左手を添えるクセが残っている人には懐かしい感触だ。
シフトレバーユニットの取り付け方法を変更して振動を低減した、と説明されていたが、あくまでも「低減」されただけで、確実に振動は伝わってくる。しかしクルマが好きな人にとっては、その振動はむしろ心地よく、「本物」であることを感じ取る方向に働くだろう。シフトのタッチもFRらしくダイレクトでストロークも適度、同様に適度に重いクラッチとあいまってシフト操作が楽しい。
ギアを1速に入れて、こちらも適度に重いアクセルペダルを踏むと、あっという間に6000回転までエンジンが吹け上がる。
しかしスピードメーターの針が指し示しているのは30km/hだ。4速以降はやや離れており巡航用だが、3速までのギアはローギヤードかつクロスしている。だからシフトチェンジで忙しいものの街中の加速はとても楽しい。ズボラ運転したいときは、ほんの少しクラッチワークに気を使えば2速発進も難しくはない。まるで30年前の自動車雑誌のような表現だが4速2000回転40kmからの加速も多少緩慢だが実用の範囲だ。
2000回転から十分なトルクが供給され、4000回転くらいから一段と回る3気筒ターボは回しても、下から踏んでも意図通りに車を動かすことができる。もちろん、それはダイレクトに動力が伝わるマニュアルトランスミッションとの組み合わせだから、ということもある。エンジンの音質もまろやかで、駆動系の音も多少あるものの車内への侵入は少なく、思いの外、遮音性が高い。
鈍くない、穏やかな足回りはオンロードでも大丈夫
実は試乗前から気になっていたのはジムニーの前後リジットサスペンションだ。大きさは違えども同じような成り立ちを持つトヨタのランドクルーザーやメルセデス・ベンツのGクラスが、今やオンロードでの性能向上のためにフロントサスペンションに独立懸架を採用しているのに対して、ジムニーは今回もリジットである。
フロントサスペンションを独立式にする効果はオンロードで非常に大きい。実際、Gクラスはむやみにパワーアップを重ねるエンジンパワーを受け止めるに十分な足回り性能を、新型でようやく確保した。いまも本質は「働く軽自動車」ゆえに、長距離の移動よりも山岳路や悪路での走行性能を重視したジムニーが、一般路や高速道路で現代の水準の走りを披露するのかという懸念は、しかし杞憂だった。
コーナーでは比較的ロールはするものの、そのスピードは穏やかで十分な安心感がある。街中で60km/h程度までであれば特殊な感じはほぼない。もちろん175/80R16という細めで背の高いタイヤの限界はそれほど高くないが、なにしろ挙動自体が穏やかだ。両輪が同時に段差を越えるとさすがにハシューネスは感じるが、一番懸念していた高速道路での直進性もそこまで悪くなく、現代的標準の少し下で収まっている。
「返したくない」クルマ
それにしてもジムニーのMT車は非常にクルマのリズムが良く、運転が楽しかった。パワーの少ないエンジンを引っ張りながら、適切に配分されたギアを選択して走るのは本当に楽しい。よく走り込んでチューニングしたのだろう。久しぶりに「返したくない」一台だった。
やはりオートマはオートマ
いっぽうAT車は絶対的なパワーとトルクのなさをカバーするためか、それなりの頻度でキックダウンを行いトルコンの制御もややルーズだ。がんばってダイレクト感を出そうとしているのはわかるものの、MT車ほど街中での運転のリズム感は良くはない。
高速道路ではおそらく120~130km/hまで実用範囲だが、80km/h以上の加速は少々緩慢になる。ただ100km/hでかろうじて3800回転くらいに収まっていることと、四角いボディのわりに風切り音が大きくないことで、予想外に静粛性は確保されていた。速度の高まりとともに足回りの収まりはやや悪くなるが、高速での乗り心地も事前予想よりはるかに快適だった。
ちなみにAT車はトランスファーからの「シャー」という音がやや気になったがこれは個体差かもしれない。しかしアイドリング時にNでもDでも床に振動を感じるのは明確にマイナスポイントだ。アイドルアップしている間は気にならないので、チューニング次第で解消する類のものだと思いたい。
AT車は操る楽しみこそMT車に及ばないが、街中でも高速道路でも無難に走ることができる。鈍いというよりは穏やかな足回りはむしろ女性ユーザーには歓迎されるかもしれない。もちろんAT車をチョイスするなら、そして遠出が多いのであれば1.5Lのシエラという手もあるが、軽自動車であることに価値があるという人も多いだろう。
長く乗っても、すぐ手放しても大丈夫
新型ジムニーは想像していたより、肩透かしに近いほど、音も振動も抑えられていた。オンロードの走りはハスラーなどのSUVタイプには及ばないけれど大きく見劣りはしない。
クルマの基礎部分はラダーフレームにリジットサスペンションという古典的な成り立ちではあるが、メーター内の液晶画面に道路標識が表示されるのを見ると、最新の道具なのだと思い至る。唯一不満があるとしたらWTLCモードで13.2〜16.2km/Lしか走らない燃費だろう。
時計のGショックのように、アウトドアブランドのアウターのように、オーバースペックな機能を持つ道具をファッションとする流れにジムニーも乗ったのだろうか、発売開始以来、その販売は絶好調だ。良くできた道具ゆえ、特にMT車はクルマ好きにとっては長い相棒になるだろう。一方でファッションとして買って、万が一持て余したり飽きてしまったとしても経済的な損失は少ないということはお知らせしておきたい。値落ちの少ない軽自動車のなかでも、モデルライフの長いジムニーの下取り価格の良さには定評があるからだ。
(掲載 2018.10) (文:馬弓良輔、写真:萩原文博)
スズキジムニーのオススメグレードはこれ!
車名 | 搭載エンジン | 駆動方式 | グレード名 | 価格(円) |
ジムニー | 直列3気筒DOHCターボ | 4WD | XC(5MT) | 1,458,000 |
XC(4AT) | 1,555,200 | |||
XL(5MT) | 1,582,200 | |||
XL(4AT) | 1,679,400 | |||
XG(5MT) | 1,744,200 | |||
XG(4AT) | 1,841,400 |
充実した安全装備&ボディカラーの最上級グレードXCの5MT車
約20年振りのフルモデルチェンジを行い、4代目へと進化したスズキジムニー。最近は軽自動車でも悪路走破性を高めたクロスオーバーSUVモデルが登場しているが、ジムニーの能力はそのモデルたちとは一線を画すものとなっている。一方で街乗りでも十分な快適性が確保されているのも20年分の進化のおかげだ。
特に安全装備は大幅にアップデートされ、単眼カメラとレーザーレーダーを備えたデュアルセンサーブレーキサポートを最上級グレードのXCに標準装備している(他のグレードはオプション)。
グレード構成は価格の高い順にXC、XL、XGの3種類。車両本体価格は145万8000円〜184万1400円と昨今のスーパーハイトワゴンの価格高騰ぶりを考えると、割安にすら感じる。
そんな4代目ジムニーのオススメグレードは、やはり安全装備に加えてLEDヘッドライトやアルミホイールなど華のある装備が充実したXCだろう。XCなら流行の2トーンボディカラーも選ぶことができる。マニュアル免許のある方なら5速MTを、万難を排して選んでほしい。ジムニーの特徴であるキビキビとした走りがより際立っている。
スズキジムニーのライバルはこれ!
車名 | 価格 | ボディサイズ(全長×全幅×全高mm) |
スズキ ハスラー Xターボ 4WD | 1,674,000 | 3395×1475×1665 |
ダイハツ キャスト アクティバ Gターボ“プライムコレクションSAIII”4WD |
1,711,800 | 3395×1475×1630 |
スズキハスラー -ワゴンRをベースとしたクロスオーバーSUV
2014年1月より販売開始したスズキハスラーはハイトワゴンの広い室内空間とSUVの融合させたクロスオーバーモデルだ。
3代目ワゴンRをベースに、最低地上高 180mm(4WD車は175mm)を確保したボディを採用。起伏のある路面でもバンパーやボディが接触しないよう工夫されている。ジムニーがラダーフレーム+パートタイム式4WDなのに対して、ハスラーは乗用車用のモノコックボディ+フルタイム4WDなので、悪路走破性はジムニーが優位となる。
搭載されているエンジンは直列3気筒自然吸気と直列3気筒ターボの2種類でモーター機能付き発電機のISGとリチウムイオンバッテリーを組み合わせたS-エネチャージを採用。その結果、JC08モード燃費は24.2〜32.0km/Lと軽自動車でトップレベルの燃費性能を実現。4WD車には「ヒルディセントコントロール」や「グリップコントロール」などを装備し、ほどほどの悪路なら普通のクルマより走破性は高い。
安全装備は上級グレードがデュアルカメラブレーキサポート、その他はレーダーブレーキサポートと運転支援システムが異なっているのはユーザーにとって少々不満なポイントだ。
スズキハスラーのスペック
ボディサイズは全長3395 mm×全幅1475mm×全高1665mm。搭載するエンジンは最高出力52psを発生する660cc直列3気筒自然吸気と最高出力64psを発生する直列3気筒ターボの2種類。
トランスミッションは自然吸気が5MTとCVT、ターボはCVTのみで駆動方式は全グレードで2WDと4WDを選ぶことが可能。車両本体価格はA 2WD車110万520円〜Xターボ4WDの167万4000円
ダイハツキャストアクティバ -最新のスマアシIIIを搭載したクロスオーバーSUV
2015年9月に販売開始したダイハツキャストは3つの個性をもつハイトワゴン。そのなかの一つが最低地上高を180mm(4WD車は175mm)と高めると同時に車両の下回りをプロテクトする樹脂ガーニッシュ。そして15インチの大径タイヤなどを採用したアクティバだ。
キャストアクティバは軽量高剛性ボディの「D-モノコック」をはじめ、「Dサスペンション」などを採用することで、優れたハンドリングと走行時のふらつきが少ない走行安定性で定評のある現行型ムーヴがベース。
4WD車はグリップしている側タイヤに駆動力を与えることで、発進をサポートする「グリップサポート制御」、そして滑りやすい下り坂などでドライバーがブレーキ操作をしなくても一定の車速をキープし、安定した降坂を実現する「DAC制御」を標準装備している。こちらもサスペンションの構造なども悪路対策を講じているジムニーにはかなわないが、普通の軽自動車よりは優れている。
搭載するエンジンは直列3気筒自然吸気と直列3気筒ターボの2種類でミッションは全車CVTが組み合わされる。JC08モード燃費は25.0〜30.0km/Lで駆動方式による差が小さいのが特徴だ。
安全装備は2017年10月のマイナーチェンジで、スマートアシストIIからステレオカメラを採用したスマートアシストIIIに進化。さらにパノラマモニターを採用し、高い安全性能を実現している。
ダイハツキャストアクティバのスペック
ボディサイズは全長3395mm×全幅1475mm×全高1630mm。
搭載するエンジンは最高出力52psを発生する660cc直列3気筒自然吸気と最高出力64psを発生する直列3気筒ターボの2種類。トランスミッションはCVTのみで駆動方式は全グレードで2WDと4WDを選ぶことが可能。車両本体価格はXの122万5800円〜Gターボ“プライムコレクションSAIII”4WDの171万1800円